もっと、せいのこと。

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『子どものための同意』について、考えること。

※「〜について、考えること。」というタイトルの記事は、以前ブログ内で紹介した情報に対する、自分の意見を書いたものです。出来るだけ参考文献等は入れていく方針ですが、一個人の意見として参考にしていただければ幸いです。

 

 

身体の自己決定権。

 

今まで生きてきた中で、この言葉を耳にしたことはありますか?私は残念ながら、去年(2018年)までありませんでした。(英語の同じようなフレーズは聞いたことがありましたが。)

基本的な考えは、こうです。

「自分の身体のことは、自分で決める。」

 

ほとんどの人が、何を当たり前のことを、と思うかもしれません。子どものころ保護者等に「自分のことは自分で決めなさい!」と怒られたのを思い出した人もいるかも。笑

けど、今の日本で、これって本当に当たり前のことになっているのかな、とすこし考えることがあります。 

今日は、それについて書いてみたいと思います。

 

 

 

自己決定……?

例えば、今までこんなものを見た・経験したことはありませんか?

  • 後ろから友達が、背中をドンっと叩いておどかしてきた。
  • ねえ、髪を切った?と友達・恋人の髪を触った。
  • ドラマで恋人役が、相手に急にキスをした。

 

え、何がおかしいの?と思う方も多いと思います。むしろ、誰もが一度は目にしたことがあったり、友達や恋人にした・されたこと人もいるかもしれません。

 

もちろん上記のものは、別に全てが悪いわけではありません。ただ、条件があるんです。 ここでいう条件とは、

「されている側が行為に同意していること」

つまり、相手が(心から)「いいよ!!」と、口に出していることが必要なんです。

 

また何かめんどくさいこと言い出したぞ、と思った人もいるでしょうか。笑 どう思ったかはとりあえず置いておいて、ぜひ前の記事のビデオを見てみてください。

 

seikyoiku.hatenablog.com

 

 

嫌な時は、嫌と言えるか。

ビデオを見ても見ていなくても、大切メッセージは以下の3つ。

「自分の身体のことは自分が決めていい」

「嫌な時は嫌と言っていい」

「相手がどう思っているか尋ねて、答えを聞いてから行動しよう」

です。

 

どれも当たり前のことのように聞こえます。ただし、実行するとなると、本当に当たり前にできるでしょうか。

 

特に後ろ二つ。

 

あなたは本当に、嫌な時にはっきりと「嫌だ!」、と言えますか。毎回誰かに触れる時に、「触っていい?」と聞いていますか。正直私はまだ、100%の自信はありません……。(特に前者)

 

このビデオは、アメリカで作られたものです。*1 これは海外、特にアメリカの人にとっては、非常にシンプルな内容だと思います。NoはNoという意味だし*、きちんとNoと言えるし、ハグするときもきちんと「ハグしていい?」と聞いてくれたりします。(ビデオのような教育を受けた人だと思いますが)

*考えてみれば変な話ですが、日本では「嫌よ嫌よも好きのうち」という非常に厄介な言葉を信じて、人から言われた「嫌」を自分の好きなように解釈してしまっている人がいます……。嫌よ嫌よは嫌、です。別の同意に関する記事でまた少し話すると思います。

 

けれどこれらのことって、日本人にとっては、割とハードルが高いのでは?と思うのです。

 

 

「空気を読む」文化

これが単純にいかない一つの理由として思い浮かぶのは、日本にある「空気を読む」という文化です。相手の思っていることを「察する(べき)」文化ということも言えるかもしれません。

 

なぜこれが妨げになるのか。なぜなら私たちは普段から、無意識に自分や周りに期待していると思うのです。

 

される側は、「嫌だと言わなくても、分かってくれるだろう。」、

する側は、「嫌がっていたら分かるだろう」、と。

 

またいちいちお伺いを立てたり、注意をすることについて野暮だと思ったり、「『私は空気が読めません』と言っているようなものじゃないか」、などと思う人もいるかもしれません。

 

けど、本当にそうでしょうか。

 

 

 はっきり言う文化、はっきり言わない文化

日本は、はっきり物を伝えない文化です。時代とともに少しずつ変わってきているかもしれませんが、やはりまだ根本は大きく変わっていないと思います。「口は災いの元」「沈黙は金なり」などに代表される、多くを語ることをネガティブに捉えたことわざがたくさん存在します。一方、海外の多くの国は、自分の意見をはっきり言うことをとても大切にしています。*2

なぜこのような違いがあるのでしょうか。それには以下のような解釈があります。*3

 

外国、特に隣国と陸地でつながっている国は、地理的条件から人々の流出入が多くなり、民族、考え方、文化などが、入り混じりやすくなります。昔であれば、領地の取り合いもしたでしょう。今は移民などが入り混じり、多民族国家となっているところもたくさんあります。コミュニケーションを取ろうにも、民族や文化、宗教などがまるでが違うことも多々あります。相手(や自分!)が嘘をついている可能性もあります。そんな時に、相手の思っていることをこちらが勝手に想像して行動する、また逆に向こうが推測して行動してくるのは、あまり合理的とは言えないどころか、自分を危険に晒したり、争いに発展することにもなりかねません。だから大切なのは、お互いのことをしっかり言葉で伝え合う話し合いです。だから海外の多くの国は、自分の意見をはっきり言うことが大切なことなのです。

 

一方日本は、四方を海に囲まれた、割と小さな国です。飛行機がなかった時代、他の国の人の流出入は限られていました。もちろん日本の中にもいくつかの民族はいますし、近年どんどん他の国からの移住者や旅行者が増えていますが、少なくとも今までの多くの日本人の考え方、文化や生活様式は、飛び抜けて違うこともあまりないような集合体で、陸続きで隣国からの様々な交流があった国と比べると割と均一的にだったと思います。だからこそ生まれることができたのが、「空気を読む」「察する」という文化ではないでしょうか。相手が自分と近しい感覚、考え方、文化、を持っていることこそが、相手の思っていることを想像するための、前提条件になるからです。

 

 

近しい≠同じ

上記の理由ような理由やその他の要因から、空気を読むという文化は、私たちが思い浮かべる西洋諸国には強く存在しません。けれども私自身、これ自体は日本の素敵な文化だと思っています。相手のためを思って考え、相手の気持ちを想像し、相手が喜ぶような行動を取ろうとする。それはとても素敵なことで、例えばこれによって支えられているのが、日本のおもてなし文化じゃないかなと思うのです。

 

ただし、この文化にも弱点はあります。それは、

「自分の考えていることは、自分にしかわからない」

「考えていることは、口に出さないと相手には伝わらない」

という、人間のコミュニケーションの根本にある原則を、日本人にうっかり忘れさせてしまうと思うからです。どんなに同じような生活、文化、感覚、考え方をしていても、それは結局のところ、ものすごく「近しい」だけで、「全く同じ」ではないですよね。 

 

 

 全ては「推測」でしかない 

こう考えてみれば単純です。

 

問)全く同じ家で同じように育ち、全く同じ学校へ行き同じ会社で働いている、全く同じ遺伝子の一卵性双生児は、すべからく全く同じ考え方・行動をするか。

 

答えはもちろん否、です。だって、いくら同じところが多くても、やっぱり違う人間だからです。

 

けれども私たちは、双子どころかもっともっと違う人間の、話す内容、振る舞い、目線、口調、などなどから、相手の考えていることを「推測」し、「空気を読んで」行動することを周りから、社会から、ずっと求められてきました。10年ほど前に「KY(空気読めない*4)」と言う言葉が流行ってから、その風潮がより一層強くなった気がします。けれどやっぱりそれは、どこまで行っても「推測」でしかないんです。だって私たちはハリーポッターの世界みたいに、魔法*5 で相手の心を開いて読むことはできないからです。

 

 

今日のまとめ

長々と説明してしまいましたが、つまるところ、

 「人はそれぞれ違う」

ということを踏まえた上で、

 「相手がどう思っているかは、尋ねて答えを聞かない限り、本当のところは分からない」、

ということを、日本でもぜひ意識してもらえたら嬉しいなぁということです。

 

ここまでたどり着くのが想像以上に長くなってしまったので、続きはまた次回にまわしたいと思います。笑 読んでくださった方、ありがとうございました。

 

 

 

*1:制作元のBlue Seat Studiosは、アメリカ、ローアイランド州のスタジオです。https://www.blueseatstudios.com/new-page/

*2:日野資成. 「日英比較言語学の実践 III: 日英のことわざを比較して」. 『福岡女学院大学紀要 人文学部編』, 2006;16:119-136. [アクセス日: 2019年1月22日]. 参照https://ci.nii.ac.jp/els/contents110006184430.pdf?id=ART0008157299

金谷良夫. 「饒舌の文化と沈黙の文化」. 『学問への誘い -大学で何を学ぶか-』, 2005: 182-185. [アクセス日: 2019年1月22日]. 参照: http://133.72.3.72/dspace/bitstream/10487/9570/1/学問への誘い2005-40.pdf

*3:平田オリザ. 『わかりあえないことから: コミュニケーション能力とは何か』. 第4章. 講談社, 講談社現代新書; 2012.

*4:KYは、2007年ユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた。参照:「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞

*5:ハリーポッターの作中に出てくる魔法、「レジリメンス」と唱えると相手の心をこじ開けて読むことができる。参照:>ハリーポッター呪文と魔法 | ポッターポータル