『性の権利宣言』:世界 性の健康学会(WAS)
こんにちは。今までいくつか性の健康に関する内容を紹介してきましたが、
今回は原点にかえり、そもそも「性の健康ってなんだろう」というところを見てみたいと思います。
世界性の健康学会、という組織があります。その名の通り、世界の性の健康を考える学会です。
そこが2014年に『性の権利宣言』というもの発表しました。
性の健康とは何か、性の健康に関する人権などについて、様々な角度から宣言されています。性別などに関係なく、すべての人に関係する権利の話です。
(公式の日本語訳があったため、そちらをシェアさせていただきます。)
重要なポイントとしては、
という、性ってセックスのことだけじゃないんだよ、とか、
性の健康とは、セクシュアリティに関する、身体的、情緒的、精神的、社会的に良好な状態(ウェルビーイン グ)にあることであり、単に疾患、機能不全又は虚弱でないというばかりではない。
という、単に病気がない状態=健康というわけではない、というところでしょうか。
めちゃくちゃ重要な内容ばかりだし、初めて読むと、「あ、そんなことまで性の健康に含まれるんだ!」みたいな発見も結構多いので、 少し長いですが一度目を通してみると、自分の権利もよく分かるかもしれません。
(※注:ここでいう人権、権利とは、何か義務を果たさないと得られないものではなく、人が生まれながらにして持っている当然の権利のことです。)
とても重要な性の健康の基礎、ぜひ新たな発見を楽しみながら学んでみませんか。
邦題:『性の権利宣言』
原題:Declaration of Sexual Rights
制作::世界性の健康学会(World Association for Sexual Health (WAS) )
元ページ:http://www.worldsexology.org/wp-content/uploads/2014/10/DSR-Japanese.pdf(日本語版)、http://www.worldsexology.org/wp-content/uploads/2013/08/declaration_of_sexual_rights_sep03_2014.pdf(英語版)
『望まない興奮の真実(興奮の不一致)』について、考えること。
前回、「興奮の不一致」についての動画を共有しました。
前回の動画を見ていただいた方は、もうどういうことか分かりますよね。まだご覧になってないからは是非見てみてください。一言聞いただけでは何の話かよく分からない、「望まない興奮」や「興奮の不一致」、その人間関係や社会への悪影響などを、非常に分かりやすく説明してくれています。
「体は正直」って本当……?
例えば、AV、エロ本などで「体は正直だ」「体はそう言ってないよ」。そんなフレーズを聞いたことはありませんか。
これは事実ではありません。
エミリーは、具体的な例と科学的知識とを用いて、これを非常にわかりやすく説明してくれます。
例えば……
- 脳の「報酬中枢」は、快か不快、欲しいか欲しくないか、学習(ご飯前のベルとよだれの結びつきなど)などを司る。
- 「快/不快」と、「欲しい/欲しくない」は、関連しているが別物。
- 学習から得られる体の反応(例:パブロフの犬のベルの音でよだれが出ること)、物事と直接関係している(ベルを美味しそうと思っている?!)とは限らない。
- 研究で、体の反応(性器に流れる血流など)から人の心を推測するのは不可能であると判明。
- 体が〇〇という反応したからと言って、その人がそれを欲しがっている・喜んでいるとは限らない。
- 反対に、体が〇〇という反応しないからと言って、その人が欲しがっていないとも限らない。(※もちろんここは都合よく解釈・悪用禁止!!この下の一文のためのものです!)
- つまり、本人の自主的な言葉での説明が唯一の確認方法。(もちろん強要されていないこと!!)
- 自分の気持ちや意思は、他人が外から勝手に判断できることではないし、またされるべきでもない。
- かつ、体の反応≠本人の意思や同意!
体の反応≠本人の意思
こういう誤解って、性の世界で特別多く確認されています。特に日本ででよく聞く「嫌って口では言っているけど、濡れている/勃起しているよ」みたいな話、これを知るとゾッとしませんか。性のこと以外で起きないというのも興味深いことです。
例えばエミリーは、虫がいるりんごを食べても生理的反応で唾液が出た時、他人が「けど唾液が出てるってことは食べたがってるんだよね?」って言いますか、と聴衆に問うています。
言いますか?聞いたことありますか?そして何より、納得できますか?私はできませんし、想像つきません。というか、一体何を言っているんだコイツ……?と思ってしまいます(笑)
けど場面がセックスだと「嫌って言ってるけど濡れてるよ」と強要するシーン、残念ながら聞いたこと、見たことあります。
ちなみにこれは男性→女性に限った話ではなく、どのような関係、ジェンダーにも関係する話です。また、AVやエロ本などに限った話でもなく、実は普段見るドラマなどでも何気なく使われていることが多いです。(一度意識して見てみてください。)
体の反応≠同意
この「興奮の不一致」について理解していると、以前の記事に書いた2つの同意の概念(体の自己決定権、性的同意)がより生きてきます。
態度やボディランゲージだけでは分からないこと、そして気持ちを聞く大切さ、気持ちを伝える大切さ、それを尊重する大切さなどがよく分かりますよね。「空気を読む」だけでは到底足りません。
日本の(残念な)判決
非常に残念なことにここ1〜2ヶ月の間に、日本では様々な強姦訴訟が無罪になっています。これはとても許しがたいことであり、また正直、裁判官がこの話や同意の概念をまだきちんと理解していないからこそ出る判決ばかりだと思います。
このことに関しては、きちんと声を上げて戦っていかなければならないと思っています。
#MeTooから1年 なぜ日本は同意のない性交をレイプと認めないのか イギリスとの比較(小川たまか) - 個人 - Yahoo!ニュース
最後に
体の反応が必ずしも気持ちと一致しない「興奮の不一致」について、医学的な話から生活に関わる部分、司法に関わる部分まで、動画に沿って広くお話させていただきました。
相手の態度やボディランゲージを見ることは非常に大切です。しかしそれだけに頼らず、言葉としてきちんと相手の意見を求め、それを聞く大切さ、また体の反応は同意に取って代わるものではない、ということを、より深く知っていただけるお手伝いになったらいいなと思います。
ぜひ日本で、世界で、それぞれ個人が、きちんと自由意志で気持ちを伝えられて、それをきちんと尊重しあえるよう、自分の周りから少しずつ広げていきましょう。
邦題:望まない興奮の真実(興奮の不一致)
原題:The truth about unwanted arousal
講演者・制作:エミリー・ナゴスキー(Emily Nagoski)・TED
元ページ: https://www.ted.com/talks/emily_nagoski_the_truth_about_unwanted_arousal?utm_campaign=tedspread&utm_medium=referral&utm_source=tedcomshare
『望まない興奮の真実(興奮の不一致)』:TED
今回の動画のテーマは、「興奮の不一致」です。
一言聞いただけでは、何の話かよく分からないかもしれません。望まない興奮とは?興奮の不一致とは??
難しく考える前に、ぜひ動画を見てみてください。講演者が、具体的な例と科学的知識とを用いて、非常にわかりやすく説明してくれます。
(※日本語字幕を表示する方法 → 右下に、吹き出しの中に…マークがついたアイコンがあります。スマホの場合は全画面表示すると出てくると思います。それを押すと、字幕言語があ選べますので日本語を選んで決定してください。)
この概念と同意がしっかりと浸透した日本を目指して!
邦題:望まない興奮の真実(興奮の不一致)
原題:The truth about unwanted arousal
講演者・制作:エミリー・ナゴスキー(Emily Nagoski)・TED
元ページ: https://www.ted.com/talks/emily_nagoski_the_truth_about_unwanted_arousal?utm_campaign=tedspread&utm_medium=referral&utm_source=tedcomshare
『結婚の自由をすべての人に』:Marriage For All Japan
明日は恋人たちの日、バレンタインデー。
その明日、日本が新たな一歩を踏み出そうとしていると聞いて、別の記事の準備してたけど、急遽こちらをアップすることにしました。今回の記事は、英語の記事ではないけど、日本にとってすごく大事なことだと思います。
明日から始まる、同性婚に関する全国一斉訴訟について。
同性婚を認めて欲しい。
明日、2019年2月14日、日本で同性婚を合法化するための全国一斉訴訟が始まります。
同性婚を認める=同性同士で婚姻届を出して受理してもらう、そして、異性同士の結婚と同様の権利を国に認めて保障してもらう、ということを求める訴訟。バレンタインデーの明日から、全国で一斉に始まるそうです。
LOVE IS LOVE
(撮影:カナダ、バンクーバー)
愛は愛。私はいつもそう思っています。
男性であっても、女性であっても、性別なんてなくても。結婚したくても、したくなくても。全ての人に人生の「選択肢」があること、とても当たり前で、素晴らしいことではないでしょうか。
「でも同性婚なんて……」、「正直良くわからない」、「絶対反対!!」と言う方も世の中にはいらっしゃると思います。そういう方いらっしゃったら、騙されたと思って、一度だけ下記のリンク2つを見ていただけないでしょうか。
同性婚を認めたらどうなる?
一つ目は、すでに私たちに先駆けて2013年に同性婚を国として認めたニュージーランド。そこの議員さんのスピーチです。最近日本でも話題になっているそうなので、すでに見かけたことがある方も多いかもしれません。
非常にシンプルで、ユーモアと愛があふれていて、それでいてわかりやすい。同性婚に関して不安に思っていることも、解決されるかもしれません。
今、私たちがやろうとしていることは「愛し合う二人の結婚を認めよう」。ただそれだけです。
日本語字幕付き動画1と2
法律、条例、少子化問題……?
二つ目は、法律や条例や、少子化問題やその他、同性婚に関する気になる疑問に答えてくれます。訴訟を行う団体の「よくある質問」ページです。
「同性婚ってなんですか?」「どうして同性婚を求めているのですか?「同性婚を認めると少子化が進むのではないですか?」など、様々な質問が載っています。
よくあるご質問 | 結婚の自由をすべての人に - Marriage for All Japan -
ひとつひとつの質問に、わかりやすく、丁寧に説明してくれています。
「選択肢」を。
結婚してもいい、しなくてもいい。男でも女でも、性別がなくても、誰でも、愛する人と法に守られて暮らすという人生の「選択肢」がある。そうした個人やカップルの意思がきちんと尊重される、そんな社会にしていきたいと思います。
もしこれまでの記事や動画などを見てあなたが、「それ、いいな」と思えたら、とても嬉しく思います。もしかしてさらに、自分も何かしたい!と思えたなら、今回の訴訟団体が募っている、下記の署名にご協力いただけないでしょうか。
(※私が個人的に賛同しているのでシェアさせていただきました。)
すべての人に、人生の素敵な「選択肢」を。
よろしくお願いいたします。
サイト名:『Marriage For All Japan- 結婚の自由をすべての人に』
制作:一般社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に
元ページ: http://marriageforall.jp
『同意を理解するのは”フライドポテト”くらい簡単』:Planned Parenthood
今回は、同意についてもう少し詳しく見ていきたいと思います。
前回の紹介記事*1 では、同意についての基礎的な内容を、紅茶を提供することになぞらえて紹介したビデオを掲載させていただきました。今回はその同意についてもう少し掘り下げた、米の非営利組織「Planned Parenthood*2」の記事を取り上げてみました。
CONSENT - I love FRIES.
Understanding consent is as easy as FRIES. Consent... | Planned Parenthoo
フライドポテト???と思った方もいると思いますが、FRIES(=フライドポテト)は同意の重要な5か条の頭文字で、
同意とは……、
- Freely given. → 強制されず自由に、
- Reversible. → いつでも撤回できて、
- Informed. → 申告内容が守られた状態で、
- Enthusiastic. → 積極的に(熱意を持って)、
- Specific. → 特定の行為・ものに対してのみ、
与えられるものである、というものです。
重要な5ヶ条
- Freely given. → 強制されず自由に、
Doing something sexual with someone is a decision that should be made without pressure, force, manipulation, or while drunk or high.
性的なことを誰かとすることは、プレッシャーを感じたり、強制されたり、ごまかされたり、または酔っ払っていたりハイになっていたりすることなく、(自由意志で)決められるべきものである。
-
Reversible. → いつでも撤回できて、
Anyone can change their mind about what they want to do, at any time. Even if you’ve done it before or are in the middle of having sex.
誰でも好きな時に、何をどうしたいかという気持ちを変えることができる。以前やったことがあることでも、性行為の真っ最中であっても。
-
Informed. → 申告内容が守られた状態で、
Be honest. For example, if someone says they’ll use a condom and then they don’t, that’s not consent.
正直(誠実)でいよう。例えば、もし「コンドーム使うよ」と言って使わなかったら、それは同意じゃない。
-
Enthusiastic. → 積極的に(熱意を持って)、
If someone isn’t excited, or really into it, that’s not consent.
もし(同意内容について)わくわくしていなかったり、あんまり乗り気じゃなかったら、それは同意じゃない。
-
Specific. → 特定の行為・ものに対してのみ、
Saying yes to one thing (like going to the bedroom to make out) doesn’t mean they’ve said yes to others (like oral sex).
一つのことにOKすること(例えば性行為をするために寝室に行くこと)は、他のこと(例えばオーラルセックス=口を使った(特に性器への)愛撫)にもOKしたという意味ではない。
性的同意に共通認識を。
一般社会でいうと、一口に「同意」と言っても人それぞれ色んな解釈があるかもしれません。けど性的同意においては、同意とはこの5ヶ条が前提となっています。今後ぜひこの5ヶ条をしっかり意識して行動していってくださいね。
余談ですが……、FRIESにかわる日本語のいい略がなかなか思いつかないのです。笑 何かいいアイディアありませんでしょうか。私もまた思いついたら投稿しますね。
邦題:同意を理解するのは『フライドポテト』くらい簡単
原題:Understanding consent is as easy as FRIES.
制作:Planned Parenthood
*1:前回記事はこちら→seikyoiku.hatenablog.com
*2:100年以上の歴史を誇る、性の健康に関するサービスを提供する米の非営利組織。正式名称は、Planned Parenthood Federation of America, Inc. (PPFA)(全米家族計画連盟)、参照:https://www.plannedparenthood.org
『子どものための同意』について、考えること。
※「〜について、考えること。」というタイトルの記事は、以前ブログ内で紹介した情報に対する、自分の意見を書いたものです。出来るだけ参考文献等は入れていく方針ですが、一個人の意見として参考にしていただければ幸いです。
身体の自己決定権。
今まで生きてきた中で、この言葉を耳にしたことはありますか?私は残念ながら、去年(2018年)までありませんでした。(英語の同じようなフレーズは聞いたことがありましたが。)
基本的な考えは、こうです。
「自分の身体のことは、自分で決める。」
ほとんどの人が、何を当たり前のことを、と思うかもしれません。子どものころ保護者等に「自分のことは自分で決めなさい!」と怒られたのを思い出した人もいるかも。笑
けど、今の日本で、これって本当に当たり前のことになっているのかな、とすこし考えることがあります。
今日は、それについて書いてみたいと思います。
自己決定……?
例えば、今までこんなものを見た・経験したことはありませんか?
- 後ろから友達が、背中をドンっと叩いておどかしてきた。
- ねえ、髪を切った?と友達・恋人の髪を触った。
- ドラマで恋人役が、相手に急にキスをした。
え、何がおかしいの?と思う方も多いと思います。むしろ、誰もが一度は目にしたことがあったり、友達や恋人にした・されたこと人もいるかもしれません。
もちろん上記のものは、別に全てが悪いわけではありません。ただ、条件があるんです。 ここでいう条件とは、
「されている側が行為に同意していること」
つまり、相手が(心から)「いいよ!!」と、口に出していることが必要なんです。
また何かめんどくさいこと言い出したぞ、と思った人もいるでしょうか。笑 どう思ったかはとりあえず置いておいて、ぜひ前の記事のビデオを見てみてください。
嫌な時は、嫌と言えるか。
ビデオを見ても見ていなくても、大切メッセージは以下の3つ。
「自分の身体のことは自分が決めていい」
「嫌な時は嫌と言っていい」
「相手がどう思っているか尋ねて、答えを聞いてから行動しよう」
です。
どれも当たり前のことのように聞こえます。ただし、実行するとなると、本当に当たり前にできるでしょうか。
特に後ろ二つ。
あなたは本当に、嫌な時にはっきりと「嫌だ!」、と言えますか。毎回誰かに触れる時に、「触っていい?」と聞いていますか。正直私はまだ、100%の自信はありません……。(特に前者)
このビデオは、アメリカで作られたものです。*1 これは海外、特にアメリカの人にとっては、非常にシンプルな内容だと思います。NoはNoという意味だし*、きちんとNoと言えるし、ハグするときもきちんと「ハグしていい?」と聞いてくれたりします。(ビデオのような教育を受けた人だと思いますが)
*考えてみれば変な話ですが、日本では「嫌よ嫌よも好きのうち」という非常に厄介な言葉を信じて、人から言われた「嫌」を自分の好きなように解釈してしまっている人がいます……。嫌よ嫌よは嫌、です。別の同意に関する記事でまた少し話すると思います。
けれどこれらのことって、日本人にとっては、割とハードルが高いのでは?と思うのです。
「空気を読む」文化
これが単純にいかない一つの理由として思い浮かぶのは、日本にある「空気を読む」という文化です。相手の思っていることを「察する(べき)」文化ということも言えるかもしれません。
なぜこれが妨げになるのか。なぜなら私たちは普段から、無意識に自分や周りに期待していると思うのです。
される側は、「嫌だと言わなくても、分かってくれるだろう。」、
する側は、「嫌がっていたら分かるだろう」、と。
またいちいちお伺いを立てたり、注意をすることについて野暮だと思ったり、「『私は空気が読めません』と言っているようなものじゃないか」、などと思う人もいるかもしれません。
けど、本当にそうでしょうか。
はっきり言う文化、はっきり言わない文化
日本は、はっきり物を伝えない文化です。時代とともに少しずつ変わってきているかもしれませんが、やはりまだ根本は大きく変わっていないと思います。「口は災いの元」「沈黙は金なり」などに代表される、多くを語ることをネガティブに捉えたことわざがたくさん存在します。一方、海外の多くの国は、自分の意見をはっきり言うことをとても大切にしています。*2
なぜこのような違いがあるのでしょうか。それには以下のような解釈があります。*3
外国、特に隣国と陸地でつながっている国は、地理的条件から人々の流出入が多くなり、民族、考え方、文化などが、入り混じりやすくなります。昔であれば、領地の取り合いもしたでしょう。今は移民などが入り混じり、多民族国家となっているところもたくさんあります。コミュニケーションを取ろうにも、民族や文化、宗教などがまるでが違うことも多々あります。相手(や自分!)が嘘をついている可能性もあります。そんな時に、相手の思っていることをこちらが勝手に想像して行動する、また逆に向こうが推測して行動してくるのは、あまり合理的とは言えないどころか、自分を危険に晒したり、争いに発展することにもなりかねません。だから大切なのは、お互いのことをしっかり言葉で伝え合う話し合いです。だから海外の多くの国は、自分の意見をはっきり言うことが大切なことなのです。
一方日本は、四方を海に囲まれた、割と小さな国です。飛行機がなかった時代、他の国の人の流出入は限られていました。もちろん日本の中にもいくつかの民族はいますし、近年どんどん他の国からの移住者や旅行者が増えていますが、少なくとも今までの多くの日本人の考え方、文化や生活様式は、飛び抜けて違うこともあまりないような集合体で、陸続きで隣国からの様々な交流があった国と比べると割と均一的にだったと思います。だからこそ生まれることができたのが、「空気を読む」「察する」という文化ではないでしょうか。相手が自分と近しい感覚、考え方、文化、を持っていることこそが、相手の思っていることを想像するための、前提条件になるからです。
近しい≠同じ
上記の理由ような理由やその他の要因から、空気を読むという文化は、私たちが思い浮かべる西洋諸国には強く存在しません。けれども私自身、これ自体は日本の素敵な文化だと思っています。相手のためを思って考え、相手の気持ちを想像し、相手が喜ぶような行動を取ろうとする。それはとても素敵なことで、例えばこれによって支えられているのが、日本のおもてなし文化じゃないかなと思うのです。
ただし、この文化にも弱点はあります。それは、
「自分の考えていることは、自分にしかわからない」
「考えていることは、口に出さないと相手には伝わらない」
という、人間のコミュニケーションの根本にある原則を、日本人にうっかり忘れさせてしまうと思うからです。どんなに同じような生活、文化、感覚、考え方をしていても、それは結局のところ、ものすごく「近しい」だけで、「全く同じ」ではないですよね。
全ては「推測」でしかない
こう考えてみれば単純です。
問)全く同じ家で同じように育ち、全く同じ学校へ行き同じ会社で働いている、全く同じ遺伝子の一卵性双生児は、すべからく全く同じ考え方・行動をするか。
答えはもちろん否、です。だって、いくら同じところが多くても、やっぱり違う人間だからです。
けれども私たちは、双子どころかもっともっと違う人間の、話す内容、振る舞い、目線、口調、などなどから、相手の考えていることを「推測」し、「空気を読んで」行動することを周りから、社会から、ずっと求められてきました。10年ほど前に「KY(空気読めない*4)」と言う言葉が流行ってから、その風潮がより一層強くなった気がします。けれどやっぱりそれは、どこまで行っても「推測」でしかないんです。だって私たちはハリーポッターの世界みたいに、魔法*5 で相手の心を開いて読むことはできないからです。
今日のまとめ
長々と説明してしまいましたが、つまるところ、
「人はそれぞれ違う」
ということを踏まえた上で、
「相手がどう思っているかは、尋ねて答えを聞かない限り、本当のところは分からない」、
ということを、日本でもぜひ意識してもらえたら嬉しいなぁということです。
ここまでたどり着くのが想像以上に長くなってしまったので、続きはまた次回にまわしたいと思います。笑 読んでくださった方、ありがとうございました。
*1:制作元のBlue Seat Studiosは、アメリカ、ローアイランド州のスタジオです。https://www.blueseatstudios.com/new-page/
*2:日野資成. 「日英比較言語学の実践 III: 日英のことわざを比較して」. 『福岡女学院大学紀要 人文学部編』, 2006;16:119-136. [アクセス日: 2019年1月22日]. 参照: https://ci.nii.ac.jp/els/contents110006184430.pdf?id=ART0008157299
金谷良夫. 「饒舌の文化と沈黙の文化」. 『学問への誘い -大学で何を学ぶか-』, 2005: 182-185. [アクセス日: 2019年1月22日]. 参照: http://133.72.3.72/dspace/bitstream/10487/9570/1/学問への誘い2005-40.pdf
*3:平田オリザ. 『わかりあえないことから: コミュニケーション能力とは何か』. 第4章. 講談社, 講談社現代新書; 2012.
*4:KYは、2007年ユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた。参照:「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞
*5:ハリーポッターの作中に出てくる魔法、「レジリメンス」と唱えると相手の心をこじ開けて読むことができる。参照:>ハリーポッター呪文と魔法 | ポッターポータル
『紅茶と同意』:Blue Seat Studios
今度は同意について。
同意って聞くと難しく思えるかもしれませんが、お茶を提供するのと同じくらい、シンプルな話です。前回の「体の自己決定権」*1 の考え方を基礎にしています。
とてもシンプルだけど、とても大切な話です。
子どものための同意と同じスタジオが制作しています。また同様に、函館性暴力防止対策協議会の方が、日本語吹き替えを作ってくださっているので、そちらを掲載させていただきます。元データの方に興味がある方は、画像下のURLをご確認ください。
邦題:紅茶と同意 (同意 〜紅茶くらいシンプル〜)
原題:Tea Consent
制作:Blue Seat Studios
吹替:函館性暴力防止対策協議会
元データ:https://youtu.be/xxlwgv-jVI8 (日本語版)、https://youtu.be/oQbei5JGiT8(英語版、日本語字幕あり)、https://youtu.be/pZwvrxVavnQ(イギリス英語版)
*1:前回記事はこちら→